FX業者について考える:その2(NDDに関する論点)

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前の記事ではFX業者のビジネスモデルの基本を示した。今回はNDDに関する論点を巡って考察を展開してみたい。

論点1:NDDなのに原則固定で狭いスプレッド

前の記事で「NDD業者でも原則固定で狭いスプレッドを提示している業者もある」という問題に言及したため、この論点から扱うことにする。業者間で激しいスプレッド競争が展開される中、NDD業者はスプレッドの部分で顧客にアピールすることが難しい。しかし、一部のNDD業者は原則固定で狭いスプレッドを提示している。これはなぜ可能なのか。

(パターンA)可能性の一つとしては、カバー先のLP(リクイディティプロバイダー)と何らかの契約を結んでいるということだ。どこかのカバー先との間で「優先して注文を流すので固定スプレッドを提示して欲しい」という契約を結んでいるかも知れない。その場合、大量のカバー注文が流れてくるカバー先は、売りと買いをまとめてマリー収益を上げることが可能になり、狭いスプレッドを提示するだけの見返りを得られることになる。

カバー先業者にはPB(プライムブローカー、プロ向けの取引仲介業者)も含まれているので、そこが何か一枚噛んでいるかも知れない。ここでのPBの役割を簡単に言うと、銀行など複数のLPへ注文を取り次ぐ仲介業者である。FX業者は銀行一つ一つと契約しないでも、それをまとめてくれるPBと契約するという形を取ることもできる(FX業者はPBに何らかの手数料を払う)。FX業者のウェブサイトにはカバー先として多数の銀行が掲載されていたりするが、PBを介してつながっているだけの場合もある。(DD業者でもPBを使うことはある。)

(パターンB)あるいは、NDDと言いながらも、実はNDDに近い形のDDモデルなのかも知れない。ある国内業者は以前までNDDを売り文句にしていたが、いつの間にかNDDとの記載が自社サイトから消えてしまった。この業者に関しては「どのような取引でもOK」という主旨の文言を掲げる一方で、ユーザーからはスキャルピングで口座が凍結されたという報告が上がって来たりしていた。またIR情報や開示情報などにはマーケットリスクを取っているような記述があった。「NDD」と称するにしても、業界団体が定めた基準があるわけではないので、何か変則的な仕掛けがあったのかも知れない。

「カバー先が沢山あるから原則固定で狭いスプレッドを出せる」というロジックも使っていたようだが、筆者自身は疑問に思う。インターバンクの様子は外から想像しづらいかもしれないが、仮に複数のリテールFX業者のレートをまとめて出した場合、スプレッドは変動せざるをえないことが想像できるのではないだろうか。レートを提示する業者を沢山集めればスプレッドは比較的安定するかもしれないが、原則固定とまでは行かない。内部事情が分からないのであくまで推測の範囲だが、この国内業者はパターンAかパターンBのいずれかだったのではないか。(個人的にはこの業者を全面的に否定する気はない。比較的優秀な業者だと思う。あくまでもNDDという宣伝文句に対する批判であり、NDDという宣伝を止めたのなら公に説明すべきだという指摘だ。)

(パターンC)明らかに悪質なものとしては、米系FX業者F社の事例がある。この会社はNDDモデルで原則固定スプレッドだったのだが、2017年に米国の規制当局CFTCから700万ドルの課徴金と創業者2名の業界追放という非常に重い制裁を受けた。その理由を簡単に説明すると「NDDだと宣伝していたのに、カバー先業者の中に自社の子会社があった。カバー注文の大半はその子会社に流れており、顧客と利益相反が存在していた。利益相反がないNDDという宣伝文句は投資家を欺いていた」ということである。親会社からの指示で子会社が原則固定スプレッドを提示していたというのであれば納得がいく。子会社は外部でDDモデルを運用し、親会社に利益を還流していたのだ。

NDDという取引モデル自体に顧客との利益相反が存在しないというのは事実だが、そもそも業者自体が誠実でなければNDDである意味がない。また、NDD自体に厳密な定義があるわけではないので、どういう意味でNDDという言葉を使っているのかも業者によってズレがあるように思われる。いずれにせよ、企業秘密の部分は筆者自身にも正確なことは分からないのだが、NDD自体がその企業の透明性を裏付る証拠にはならないということだけは明らかである。

スプレッドの話に戻すと、原型に近いNDDであればスプレッドは変動するし、狭くすることは難しい。原則固定で狭いスプレッドを提示しているNDD業者は何らかの工夫をしていることになり、NDDのデメリットを抑える代わりに何かのメリットを失っている可能性が高い。

論点2:業者との利益相反

NDD業者は「顧客との間で利益相反が無い」ということを宣伝文句にしていることが多いので、この点について考えてみる。

稼いでいる客の一部に対してFX業者が口座凍結するのは不公正だと感じることは理解できる。FX業者は客に取引機会を提供する商売なのに、客が稼いだら追放するというのは理不尽なことだと思う。この点は明らかにDD業者のデメリットだと言える。しかし、稼いでいる客のすべてが口座凍結されているわけではない。あくまでも業者の収益を圧迫するような取引をする客が対象となっているのだ。この点について考えて行動すれば、口座凍結のリスクを下げることが出来ると思われる。(この点についてはまた別の記事を書いてみたい。業界に対しても言いたいことがある。)

他方、口座凍結とは別に「顧客の損が業者の得になる」というのが気持ち悪いという人がいるかも知れない。しかし、それは自分のトレード収益と何か関係があるのだろうか。NDDであってもカバー先のLPが客と逆のポジションを取ることには変わりはない。利益相反がFX業者ではなくカバー先になっただけなので、この点は殆ど意味がない。また「変なレート操作をするかも知れない」と考える人もいるかも知れないが、複数業者のレートを同時に調べることなど簡単に出来るので、もし市場レートから乖離した数字が出ていれば裁定取引(アービトラージ)の機会が存在することになる。

純粋にトレードでの成功を考えるならば、出来るだけ良いレートで、出来るだけ狙ったタイミングで約定してくれる業者が良いはずだ。ところが、NDDの約定はカバー先次第なので、相場急変時にスプレッドが拡大しようが、スリッページが発生しようが、指値スルーが発生しようが、業者側の責任ではどうすることも出来ないという問題がある。インターバンクで約定拒否されてしまえば業者側はどうすることも出来ない。

また一部のNDD業者は「発注数量制限なし」と言っていたが、ある程度大きな注文を出すと分割約定するということがあった。分割約定とは、ドル円を100.00円で一度に1,000枚注文すると、100.00で500枚(カバー先Aで約定)、100.10で300枚(カバー先B)、100.20で200枚(カバー先C)約定するというような現象で、カバー先に全部注文を投げるという仕組みなら避けられないものだ。株の板に対して大きな成行注文を出したのと同じで、カバー先が提示するレートにもそれぞれ厚さがあるので、こういうことが起きる。

NDD業者は客のために自社の責任でリスクを取るということが出来ないし、マリー収益を元にしてスプレッドを狭くするということも出来ない。利益相反がない代わりに、企業が裁量を発揮する余地が少ないということだ。ただ、DD業者でもスプレッドが開きやすかったり、期待通りに約定しないなどの問題はあり得る。経営方針とシステム設計次第なので、全ては個々の業者によって変わるということになる。

口座凍結の問題は重要なので、短期トレードの人は収益が安定してきたら考えた方が良いと思う。それを除けば、何となく「利益相反がない」というのは気分の問題に過ぎない。本質的には、提示レートと約定が良く、誠実な経営をしている業者を選ぶことが重要だと思う。

論点3:NDDを推す海外業者への疑問

2020年夏にTwitterを始めるまで知らなかったのだが、近年海外FXへの関心が次第に高まっているようだ。Google Trendsという検索件数の推移を調べるサービスを使うと「海外FX」の検索数が増加傾向にあることがわかる。

TwitterでFXに関して投稿すると、情報商材、無料EA配布、サロンなどへ誘導するアカウントからフォローされることがある。また大学生など若い人の間ではUSBなどを使った詐欺的行為が流行っているようだ。そういう連中が誘導するのは大半が海外業者である。無登録の海外FX業者は、日本人を対象に営業活動することは違法であり、違法行為を平然とやっている人々である。その時点で業者が誠実な組織だと期待することは出来ない。

そういう人々は、なぜか国内業者は不誠実なDDモデルを採用する呑み業者であるとして、NDDを採用している海外FX業者を選ぶべきだという論法を繰り広げる。しかし、既に論点1で述べたように、そもそも不誠実な業者がNDDを採用していたら何も意味が無い。業者の実態がどうなのか外部から確認するのは難しい。さらに、金融規制の緩い国でライセンスを取っている業者など、行政からの監視がどれだけ行き届いているのか不明である。

海外業者は、国内業者との競争においてスプレッドでは勝ち目がない。また、約定遅延、入出金リスク、税制面など不利な点が多い。高レバレッジ以外のセールスポイントが殆ど無い中でNDDを推奨するというマーケティング戦略を取っているのだろう。すでに述べたようにNDD自体は客に取って大したメリットは無いのだが、宣伝記事を書いている人たちは何処までシステムの本質を理解しているのだろうか。

まとめ

Forex Pressのこのページにある尾関高氏の言葉を引用すると「“結論的には”どういうモデルでカバーをしているかは投資家側にはなんの意味もない。それは業者側の理屈である」とのことであり、私も完全に同意する。結局、FX業者選びを考えるなら、出来るだけ良いレートで、希望の数量を出来るだけ狙ったタイミングで約定してくれるという点を優先事項にすべきだろう。また、トラブル時には誠実な対応を望みたい。

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