FX業者について考える:その3(異なる収益源と対顧客関係)

相場ポエム
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はじめに

少し前に書いた記事の続きのような形でFX業者について考えてみる。FXには幾つかのビジネスモデルが存在するが、収益構造の違いによって顧客との関係性が決まってくる。それらを確認した上で、最後に「個人がFXで継続的に勝つことは出来るのか」という問題を考察してみたい。

収益源の種類

最初にFX業者の収益源を簡単に整理する。

第一にマークアップ収益(手数料含む)がある。Xさんから200円のハンバーガーを買ってきてくれと依頼を受けたY君が、届けた時に300円を受け取ったら差額の100円がマークアップ(mark up = 価格の上乗せ、みたいな意味)に相当する。

為替の場合、LP(リクイディティ・プロバイダー = 銀行等のカバー先)でカバーする時のプライスと客に提示するレートの差額がマークアップなので、取引毎の利幅は非常に小さい。LPは「沢山注文を回してくれるお得意様には良いレートを提示します」と言うので、取引規模の大きなFX業者はこの点で有利である。

第二にマリー収益がある。Z君が存在したとして、「ハンバーガーセットを買いたいんだけど、ダイエット中だからポテトは要らないわ」というA子さんからポテトを100円で買い取る契約をし、同時にポテトを欲しがっているB君に150円で売る契約をすれば差額の50円がマリー収益になる。

為替の場合、顧客の注文のロングとショートを突き合わせることから得られる収益になる。例えばA子さんとB君が同じ業者を使って同じタイミングで、それぞれドル円のロングとショートを同量注文した場合、業者はA子さんとB君の注文を相殺することが可能になり、その際の提示スプレッドが収益になる。

現実的には、売り買い同量が完全に同じタイミングなどということは無いので、どの程度の幅を持たせるかは業者の判断に委ねられる。

第三に市場リスク収益がある。これはハンバーガー屋で例えるのは難しいので諦めるが、業者が為替のポジションを取ることから得られる収益だ。つまり普通の個人トレーダーと同じく相場の上下動が損益に反映される。

客がロングポジションを建てた際、そのまま何もしなければ(注文を呑めば)業者はショートポジションを持つことになる。客のポジションに相当するものを市場でカバーすれば業者の市場リスクは解消される。これは取引毎の損益幅が大きく、相場が反対方向に進めば業者が損する可能性もある。

この3つ以外にもスワップ金利差益とか、業者がアチコチに差し入れた預託金の金利などもあるかも知れないが、この記事で考察する問題とは余り関係がないので省略する(私もよく分からないし)。

※「市場リスク収益」というのは私が勝手に名付けたもので、別の正確な用語がある気がする。この記事を書いている途中には思い出せなかったが、後から訂正するかも知れない。

追記:マリーとカバーについて簡単な図を追加

ビジネスモデル3分類

次にビジネスモデルを分類する。今回の記事において、過去記事の分類と齟齬が生じる点はご容赦頂きたい。分類は金融先物取引業協会の資料(実態調査結果)に基づきつつ、議論のしやすさも考慮して以下の3つに分ける。

1番目はNDD、及びDDで全部カバーに流す(マリー無し)タイプとする。本当にNDDなのか、あるいはカバーのタイミング(前・後・裁量)など細かい議論の余地があるがここでは割愛する。

2番目は市場リスク低型のDDモデル。これは顧客の注文をマリーした後にはみ出た部分を比較的積極的にカバーに回すタイプ。平たく言えば「あんまり呑まない業者」である。

3番目は市場リスク高型のDDモデルで、こちらはマリー後にはみ出た部分をカバーすることに比較的消極的なタイプ。平たく言えば「ガンガン呑む業者」である。一切カバーしなければ完全呑み業者(バケットショップ)になる。

2と3の違いは程度の問題なのだが、各社のウェブサイトに掲載されている「店頭FX取引に係るリスク情報」の未カバー率を見れば違いが分かる。

カバー(cover)について簡単におさらいすると、客がロングポジションを新規で建てた場合、何もしなければ業者は反対ポジション(ショート)を持つことになる。そこで市場で同じくロングを建てればカバーしたということになるが、これに対する手当が何も無ければ未カバーということになる。

未カバー率は「呑み比率」と解釈しても良いかも知れない。

公表されている未カバー率を各業者で見比べるとかなり違いがあることが分かる。トラブルを避けるために具体名は出さないが、毎月5%未満を維持している企業もあれば、30~50%を超えるところもある。

未カバー率は絶対的な基準があるわけではなく、どの数字なら良いとか悪いとか言えるものではない。ただ、5%未満の業者も50%の業者も同列に並べて「どの業者も客の注文を呑んでいる」「客の損が業者の利益」などと言うのは無理がある。明らかにビジネスモデルが違うからだ。

これらを踏まえると以下の図のように収益構造の違いが生じる。

(1)は取引毎の手数料やマークアップが全ての収益源になる。(2)と(3)はマリー収益と市場リスク収益の比率が違うのだが、これは程度の問題であって、外部から正確な値を知ることは出来ない。ここでは説明のために便宜上適当な比率を使ってある。

業者ごとに比率が違うのは当然だが、同じ業者でも市場環境や経営方針の転換などで変わることがあるだろう。外部からこの比率を正確に把握するのは不可能だが、その業者の営業実態から傾向を察することぐらいは出来るし、その業者が客をどのように見ているかも推測することが出来る。

なお(1)は日本国内で実際に採用している企業が少ないので本記事の議論では大きく扱わない。また、同じ企業でも商品に応じて複数のモデルを採用してる(同一企業内に複数のビジネスモデルが併存している)こともある。

(3)市場リスク高型DDモデル

数字の順番が前後するが、先に(3)の 市場リスク高型DDモデルの特徴を説明したい。このタイプは原始的なFXのビジネスモデルだと思う。店頭FX黎明期はこの業態が殆どを占めていたのではないか。

これらの業者は未カバー率が高い。未カバーというのは自社が客と反対のポジションを持っているということなので、決済時に客の利益が業者の損、客の損が業者の利益となる傾向が強いということになる。

主なメリットとしては(1)や(2)に比べて収益を上げやすいということが挙げられる。マリー収益は取引が発生する都度細かい利ざやを稼ぐというものなので、多くの客が頻繁に取引してくれないとまとまった金額にならない。

それに対し、市場リスク収益は下手な客が含み損を限界まで我慢して強制ロスカットされる時に最大の利幅を稼ぐことが出来る。高レバレッジで丁半博打トレードをしてくれる客はこのタイプの業者にとって非常に美味しい。「ボーナスを加算してあげるから沢山入金してね」みたいな業者に沢山金を突っ込んで派手に負けるとその業者は大喜びだ。

逆に主なデメリットとして、顧客との露骨な利益相反関係が生じるということが挙げられる。客の利益が業者の損失になる仕組みなので、継続的に勝ち続ける客は商売の邪魔になる。そのため口座を強制解約(口座凍結)する場合が出てくる。そうした中で残りの下手な客が資金を減らして去って行くのは時間の問題なので、新規の客を焼畑農業的に取り込み続けなければならない(広告宣伝コスト増大)。

ちなみに日本の法令を守る必要の無い無登録業者であれば、口座凍結よりも悪質な出金拒否・建玉キャンセル・不正なレート操作など、必要に応じて好きな方法でデメリットに対応することが出来る。そもそも金融庁の検査もないし、客から裁判を起こされるリスクもない(日本人がわざわざセーシェル諸島やバヌアツで裁判を起こすだろうか)。

(2)市場リスク低型DDモデル

先に説明した通り原始的なFXのビジネスモデルは(3)なのだが、日本では大手を中心に段階的に(2)へ移行した業者が多いと私は理解している。(2)のメリット・デメリットは(3)の逆だ。

市場リスク低型DDモデルのメリットとして、勝っている客を追い出す必要が無く、客との共存関係を目指すことが出来る。継続的に勝てるトレーダーを囲い込むことが出来れば持続的に業者の取引高に貢献してくれる。

ただし客が「業者が嫌がる取引」を連発したりすると、口座凍結につながることもあるようだ。(2)であれば何をやっても凍結されないとは言えない。これについては機会があればまた別の記事で考察する。

パレートの法則として「2割の人間が売上の8割を支えている」というものがあるが、リテール金融業者の場合もこれが当てはまるだろう。実際の比率は不明だが場合によっては「5%の客が取引高の9割を支えている」みたいなことも十分考えられる。いずれにせよ、傾向として大口客が取引高の大部分を占めているはずなので、彼らを囲い込むことは非常に大きい。

他方、最大のデメリットは経営規模が大きくなければ収益を上げづらいことだ。零細業者がこのビジネスモデルで運営するのは厳しいだろう。日本の法令を無視して営業する無登録業者は利幅の薄いこのモデルをわざわざ採用する必要は無い。

以下若干余談だが、ネットで目にする海外FX業者の宣伝では「海外こそFXの本場」のような文言を見かけるが、2020年に世界の取引規模上位2つを占めたのは日本企業だ。国内FX業者の取引高は海外に比べて格段に大きい(ソース = Finance Magnateの記事)。

私は日本の業者が(2)へ意図的に移行してきたと推測している。金融庁との市場リスクに関する折衝や、焼畑農業的な商売で生じる多大な広告費浪費合戦から抜け出したかったから、などの理由かも知れない。「業者の市場リスク」は個人投資家の興味を殆ど引かない話題だろうが、関連情報として2018年の有識者検討会に提出された某社の資料が公開(pdf)されているのでリンクを貼っておく。

個人がFXで継続的に勝つことは出来るのか

「継続的」というのは具体的にどの程度の期間を指すのかという問題もあるのだが、いずれにせよFXで継続的に勝つのは難しいと思う。ただ、それが構造的に不可能だとは思わない

継続的に勝っている人がいるかどうか、実際に自分で確認できる人がいれば文句なしに肯定することができる。それが自分自身の場合でも良い。ただ、中にはそういう知り合いがいないという人もいるだろう。

そうした中、Twitter上で「個人がFXで継続的に勝つのは構造的に無理」というような議論があり、それがこの記事を書くきっかけになった。ビジネスモデルを(3)に限定しているのであればその人の主張は正しい。

それに対して、私は(2)が存在することを示し、(2)であれば継続的に勝つことが「構造的に不可能」とは言えないということを示したつもりである。どれだけの人に伝わるのか自信はないのだが。

また日本の業者であれば日本の法令を遵守する必要があるので「特定の顧客を不公正に優遇する」とか「法令に違反するような形で注文やレートを操作する」ということが起きる可能性は低いだろう。可能性はゼロではないが、実際にやるなら業者も相当な覚悟が必要だ。日本の業者なら行政処分による経営上の損害に加えて、役員・社員個人も民事訴訟で損害賠償請求されるリスクがある。その点、無登録海外業者は(省略)。

なお、日本の業者の中でも(2)と(3)は混在している。「全ての日本の業者が客との共存を目指している」などと言うつもりは全くないし、「このやり方はどうなんだろう」と思う企業もある。

その上で、業者が開示している情報や運営実体を見る限り「勝っている客と共存できそうなビジネスモデルも存在する」というのが私の認識である。継続的に勝っている人、あるいはそれを目指している人はそういう業者に行き着くのではなかろうか。

おわりに

この記事の内容はあくまで私見である。専門家ではないので絶対に正しいとまで言い張る気はないし、この種の話題に私より詳しい人は沢山いると思う。カバーのやり方とか細かい議論はカットしてしまった。「この記事は全然間違っている」とか、細かい点でおかしな点があれば遠慮なくご指摘頂きたい。

この話はどれだけの人に伝わるのだろうか。元々分かっている人は納得してくれると思うが、こういった話題に馴染みがない人にどれだけ通じるのか不明である。

ちなみに元々のツイッターの議論に出ていた「インジケーター自体が相場を動かす訳ではなく、実際の売買が相場の変動要因である」とか「注文が貯まっている価格帯に着目する」みたいな点は、個人的に完全に賛同している。元のツイートを書いた人に対する敵対心などは一切無い。この記事の議題に関して考えは違うけど。

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