『市場の神々』と将棋から「直感トレード」について考える

相場ポエム
スポンサーリンク

0:はじめに

結論から入るが「株や為替のトレードにおいて直感や感覚を全否定する必要はない」と私は考えている。「感覚」と「直感」は意味合いが違うが、いずれにしても単なる「当てずっぽう」とは違うものを指す言葉だ。

トレードで失敗した時に「感覚に頼ったのが間違いだった」と思う人は多いかもしれない。「感覚を避けてルールを厳守しろ」というアドバイスはよく見かける。確かに場当たり的な発想で売買を繰り返したら退場するのは時間の問題だろう。ただその一方、人類の進化の歴史をたどれば言語を獲得する前に感覚や直感を活かして生存してきたわけで、直感や感覚に頼った判断自体が間違っているとは必ずしも言えないのではないか。

この記事では感覚や直感をトレードに取り入れる合理的な理由を考察する。売買ルールを厳密に言語化・数式化したものがシステムトレードだが、裁量トレードでもテクニカル等を元にしたルールを厳守するトレード手法が存在する。こうした裁量トレードと区別するため、この記事では直感や感覚を取り入れる手法を直感トレードと呼ぶことにする。

念の為断っておくがテクニカル分析・ファンダメンタルズ分析やシステムトレードを否定する意図は一切ない。ロジックと感覚を組み合わせたり、多種多様なアプローチがあり得る。直感トレードが全然合わない人もいるだろうし、他人に強要するつもりは一切ない。

1:『市場の神々―為替ディーラーの光と陰』

本題に入ろう。この記事で一節を引用するのは1997年に出た『市場の神々―為替ディーラーの光と陰』という書籍である。著者の堀内昭利氏はスイス銀行やドイツBHF銀行で為替ディーラーとして活躍した人物。この本は私自身が為替のトレードを本格的に始める前に読み、影響を受けた一冊である。

本の中身に触れる前に、なぜこの本が自分にとって重要だったのかを簡単に説明する。最初に興味本位でFXに手を出した時、私は当てずっぽうにエントリーし、逆行して限界に来たら損切りするという馬鹿丸出しのトレードを繰り返した。素人だったので仕方ないが、この調子では金が減るだけだと確信した。

次に過去レートを取得し、テクニカル指標や統計的な処理を組み合わせてエクセル上でシミュレーションを繰り返した。こちらはそれなりに意味があったものの、勝ち方に繋がるようなアイデアは得られなかった。当時はスプレッドが広かったこともあり、個人投資家がFXで継続的に勝つのは不可能だと思えた。ただ、その一方で長期間相場で生き残っている為替のプロがいるわけで、彼らがなぜ裁量で勝っているのか非常に不思議だった。それからしばらくして、人から紹介されて読んだのがこの一冊だ。

この本は為替ディーラーとしての堀内氏の半生記のようなもので、面白い逸話も色々あるのだが400ページ超の分量がある上、勝ち方の直接的なヒントが書いてあるわけではない。「今すぐ勝ちたい」という人が時間を費やして読むべきかは分からないが、感覚に関して面白い一節があるので引用してみる。

2:直感は信用できるのか

1986年の出来事を記述した箇所に部下の育成について以下の記述がある。

(略)会社のロイタースクリーンや、このポケットロイターで為替のレートをずーーーーーーーーっと眺めていると、次第にスクリーンのレートが語りかけてくるようになってくる。つまり、次にどういう動きになるのか先読み出来るようになってくるのだ。
中山茂君が新人を教育するのに、ただひたすらロイターのスクリーンを眺めさせていたというがそれは正しい。下手な解釈よりスクリーンが発しているものを肌で感覚的につかめるようになることがディーラーとしての初歩だろう。

『市場の神々―為替ディーラーの光と陰』 190頁

文中に出てくる中山茂氏も著名な為替ディーラーである。ロイタースクリーンというのは為替情報のスクリーンで、ポケットロイターは携帯型の情報端末だ。

この文章を読んだだけでは本当に「肌で感覚的につかめるようになる」とは信じられなかっただろうが、この本を紹介してくれた元外銀為替ディーラーの人物と話をした時に「なぜ裁量で継続的に勝てる人がいるのか」と質問したら「レートをずっと見てれば分かることがある」「プライスアクション(値動き)から判断する」という趣旨のことを教えられ、次第に自分の考え方は変わった。(「プライスアクション」という言葉は人によって多少違う意味で使われているようだが、ここではシンプルに値動きのこと。)

他にもジェシー・リバモアというアメリカの相場師のテープ・リーディングの話にも影響を受けたのだが、これらの話に出会わなければ、私はほぼ間違いなく裁量トレードなど挑戦しなかったと思う。なぜなら元々私は頭でっかちで、自分の感覚を信用するよりも法則に従った作戦を考えるのが好きなタイプだからだ。感覚に頼るのは不安で嫌だった。

「チャートを見続けることで先を読めるようになる」理由は何なのか。それは、画像パターンやリズム・勢いなど、言語化・計量化しづらいものを判別する能力が人間には備わっているからではないか、と私は推測する。一例を出せば、整った顔立ちの人気女優AとBの写真を並べた時、二人が別人であることは誰でも分かるが、何がどう違うのか正確に言語化して説明するのは難しいだろう。他にも、ピアニストAとBが同じ曲を演奏した場合、演奏の違いが直感として分かったとしても言葉で説明出来るかは別問題だ。しかし、ピアノの達人ならその違いを演奏で上手く表現出来るかも知れない。

さらに、相場が人間同士のやり取りであることを踏まえれば「他の市場参加者の動きを読む」というのは感覚で捉えるほうが上手くいくかも知れない。毎日赤ん坊の面倒を見ている親がちょっとした様子の違いから体調の変化を感じ取ることが出来るように、相場の変動を上手く感じ取ることが出来るかも知れない(あくまで可能性の話)。

堅苦しい説明が続いたので、気分転換に1980年代に行われていた電話取引の雰囲気が分かる動画を紹介。詳しいことは知らないが、1分53秒から出てくるのは日本の為替ブローカーと思われる。

3:将棋のプロも直感を使う

話は変わるが、近年コンピューター分析が非常に発達してきた将棋の分野でもプロは直感を大事にすることがある。将棋棋士の頭脳を科学的に解明しようというプロジェクトが理化学研究所で行われたことがある。リンク先では棋士がどのような場面で直感を使うのか説明されているので、詳しく知りたい方は確認して欲しい。

このプロジェクトに参加した伊藤正男氏(小脳研究が専門)のインタビュー記事が「将棋プロ棋士の脳から直感の謎を探る」(リンク先PDF)というタイトルで出ており、そこから少し引用する。

記事が書かれた段階での仮説だが、直感を獲得する過程は「(略)いろいろ思考しているうちに、概念やイメージのモデルが頭頂・側頭連合野から小脳にコピーされると、無意識のうちに小脳の内部モデルが予測して、つまり直感的に答えを出すようになると考えます」とのことだ。

また「効果的に直感力を鍛える方法はありますか」という問いに対しては「小脳の内部モデルの仮説からいえば、自転車の乗り方を練習するように、何回も練習して失敗を繰り返し、内部モデルをたくさん蓄積し、洗練させていくことです。楽な方法はありません(笑)」と答えている。

脳では非常に複雑な情報処理が行われているが、その機能を正しく鍛えることが出来れば信頼出来るだけの直感を養うことが出来ると推測できる。将棋と相場はルールが異なるが、勝負事の意思決定という意味では共通する部分があるだろう。

いらすとや『将棋の対局のイラスト』

4:終わりに

この記事では直感トレードの理論的根拠を考えてみた。念の為繰り返しておくが「当てずっぽう」と「直感・感覚」は違うし、「直感を使えば貴方も明日から連戦連勝」など言っているわけではないので、その点誤解なきようお願いする。投資判断はあくまでご自身の責任で。

直感が常に正しいというわけではないし、単なる勘違いや偶然ということもある。この記事での私の主張は「人間は言語化出来ないものを捉える能力があるため、正しい感覚・直感を使ったトレードで優位性を確立することは可能」ということである。学校教育や受験勉強で身につけるスキルとは全く違うものなので、合わない人もいると思う。

なお、直感トレードに関するこの記事の内容は私自身の考えであり、『市場の神々』にそのような主張が書いてあるわけではない。この本にはディーラーを育てることの難しさが繰り返し説かれている。また、この記事で扱った論点に関連する部分では「心理的駆け引き」「複雑系」「生理学」「ファンダメンタルズ・イベント」などの議論があり得るだろう。また機会があれば別の記事で考察してみたい。

堀内昭利氏の経歴はForex Pressのインタビュー記事に簡単にまとめられているので、興味を持った方はご確認頂きたい。最後に『市場の神々』に載っている面白いエピソードの中から幾つか紹介しておこう。

最初このMさんという人には驚いた。電話でばか野郎、この野郎、死ねなどと怒鳴りまくっていた。その最初の印象があまりにも強烈だったので、私もしばらくするとそのようになっていた。面倒くさくなって、そのような口を叩かなくなったのは、40歳を過ぎてからだった。

同書44頁、為替ディーラー1年目の1975年の描写。文中の人名は引用者がアルファベットにした。

最近の悲惨な話がある。アメリカの経済指標が発表になったある日、外銀の若手ディーラーの某氏が丸の内から深夜タクシーに乗り込んだ。運転手はその日のニューヨーク市場の状況を事細かに述べたうえ、今後の相場観についてまで論述したという。後日不審に思ったその若手ディーラーが先輩ディーラーにそのときの状況、その話し振り、面影、内容を話したところ、その運転手は都市銀行のロンドンの為替責任者を経て、外銀の支店長となった後、転職した某氏であったことが判明した(部長だったと思うよ)。

同書308頁、1992年の描写。

(略)ブレークアウトが本物かどうかということを見極めるには、そうなったときのプライスアクション(いわゆる値動きというやつ)をじっと見るしかない。買い方と売り方の攻防、例えば1.5マルクを割った時は売り殺到、買い手が見えないといった状況にならねばならないのに、どこからともなく買いの手が振られ、下げ渋ればこれは本物でないと判断するしか無い。これしか逃げ道はないと私は結論づける。

私はこのストップロスというのは大嫌いだ。なかにはとうとう一生ストップロスを出さなかったというシュパナー氏みたいな人もいるが、友人たちは皆、私がのめり込むと徹底抗戦だなどとわめくものだから、必ずストップロスを入れるように忠告する。

同書326頁、1994年の描写。シュパナー氏は堀内氏の上司。

コメント

  1. たまきん より:

     突然ですが、直感は花粉症のようなものだと思っております。
    花粉とのエンカウントを繰り返した結果、ある日症状として現れるのが花粉症。これと似て、トレード経験を積み重ねた結果培われ、いつしか使えるようになるのが直感だという気がします。
     言い換えると、考えてやっていたものが考えずともになんとなく分かるようになるのが直感で、例えるならいちいち手計算してたものをエクセルのセルにポンといれるようになるような感じでしょうか?
     考えるな感じろ!の境地を体感するために、これからも一生懸命あーだこーだとりとめもないことを考えてみたいと、この記事を読んで改めて決意した次第です。あー週末が終わってしまう…

    • 管理人 より:

      たまきん様
      コメントありがとうございます。記事本文では省略したのですが「手順を踏んで考えなくても答えが分かるようになる」ものと「言葉に出来ないけど感じる」という2つの直感があり、どちらも大切だと思っています。いずれにせよ四苦八苦して経験を積まなければ身につけることが出来ないというのはご指摘の通りかと思います。今週の相場での幸運をお祈りいたします。

当ブログのコンテンツが気に入ったら広告ブロックの解除(ホワイトリスト化)をご検討下さい。

Please disable your adblocker or whitelist this site!

タイトルとURLをコピーしました